006 2018/11/28

慢性期(生活期)失語症の回復に関する研究

リハビリテーション学部 言語聴覚学科
谷哲夫先生

 私は長く急性期,回復期,生活期の臨床現場で働いておりましたが,病院を退院しても言語リハビリを受ける機会が少ないため,改善していた言語機能が低下してしまう患者さんをたくさん目の当たりにしてきました.専門家の間でも,慢性期の失語症患者に対する言語訓練の効果は限定的であるという認識が一般的であり,むしろ残存能力を生活の場面に生かせるよう実用的な工夫が臨床家に求められています.この点についてはまったく異論はないのですが,重い失語症を伴いながら生活している方々の多くは「名前だけでもいいから言えるようになりたい」「もっと家族と会話をしたい」という切実な思いを抱いていることも事実です.また失語症の方を持つ家族にとってもコミュニケーション上の悩みは日常的です.

 そこで私は,慢性期の失語症者に対して失語症状に応じた訓練プログラムを選択できる携帯型端末の開発と,その訓練効果を検証する実験をしています.下の図は失語症訓練用端末「言語くん自立編Ⅲ」を半年間貸与して使用していただいた場合の,使用頻度とWAB失語症検査におけるAQ(失語指数)の上昇値との関係を示しています.途中経過であり症例数は少ないのですが,使用頻度が高いほどAQが上昇していることが分かります.このことは慢性期であっても訓練効果があること,そして訓練量によって効果に差があることが示されたことになります.対象者を増やしさまざまな角度から分析したいと考えております.