008 2019/03/19

注意障害のリハに利用可能な理論を伝えてから、ついでにメッセージも伝えよう

リハビリテーション学部 作業療法学科
中島ともみ先生

 こんにちは。作業療法学科教員の中島ともみです。2011年からクリストファーで教えています。何でもいいですよとのことで、このコラム欄をお引き受けいたしました。タイトルを読んで皆さんの中には、なんだかライトノベルの長文タイトルか、深夜アニメのタイトルになっていると感じた方もいるのではないでしょうか。今回の内容を表題に表すと、こんな長い題になってしまいました。もしかすると、過去のコラムとは違う雰囲気の内容となるかもしれませんが、どうぞ、お付き合いください。
 それではまずは、中島が研究している注意機能のリハビリテーションについてお話ししたいと思います。学内の講義では、注意機能障害に関する講義、つまり高次機能障害についての講義を担当していない中島がなぜ注意障害と疑問に思うかもしれません。普段は、運動学とか動作分析とか、日常生活活動の分析とかを担当しているので。でも実は、私は9万人いる作業療法士の中でも10名しかしない高次脳機能障害領域の専門作業療法士なのです。あんまり披露する機会がないので、ここで自己紹介しておきたいと思います。
 さて、本題。注意障害のリハビリテーションを語るとき、最初に学ぶのが以下の理論です。注意の能動的制御Supervisary Attentional System(以下、SAS)モデルと言います。Norman&Shallice(1989)は、行動制御のメカニズムのモデルである、注意の能動的制御Supervisary Attentional System(以下SAS)を提唱しています。このモデルによると、注意の制御機能とされるSASが、適切な行動を選択できるよう制御していると言われています。このSASが適切に機能しないと、誤った行動が選択されてしまう結果となるのです(図-1)。


 Shallice(1994)によると、良く学習された行動や日常の習慣的な行為、環境に対する単純な反応様式は、スキーマとして記憶に貯蔵されています。これらは競合スケジューリングというシステムによりほぼ無意識に選択され実行されています。でも、競合スケジューリングで対応しきれないと判断されれば、適切な行動を遂行することができるよう、注意の制御システムであるSASが機能し、スキーマの選択に影響を与えているのです(図-1)。SASの機能が動員されるのは、①未習熟な行為や新奇性の高い行為の実行、②行為自体が危険である・難易度の高い行為と判断された場合、③エラーの修正や解決、④習慣性の高い行為や衝動性の制御が必要とされる時 (Shallice, 1994)⑤行為の企画や決定が求められる時(Gazzniga et al、2009)の5つがあげられているのです。つまり、注意の制御機能であるSASの機能が障害された場合では、これらの状況下で、行為の選択に誤りが生じる可能性があると考えられるわけです。
 注意障害の人は、①~⑤の際に上手いこと注意が働かなくなっているわけですね。だから、今のところ、①~⑤の場合を避けるように、誤りのない学習(エラーレスラーニング)といわれる方法で、覚えなくてはいけない日常動作を学習させる方法が推奨されています。学習時に各段階の仕草を、事前にどのような動きや手順をするのか、セラピストの助言や環境(例えば手を付けるところの印など)を設定して、あまり注意が働かなくても学習ができるように整えてあげる方法です。
 でも、これは注意機能を働かせないで学習させる方法なのだから、注意機能自体の機能向上の練習にはならない。そこで、あえてこの①~⑤の状態を作り出して注意機能の訓練をするのが、いわゆる脳トレと言われるような、机上で行う注意機能訓練です。でも、この注意機能の訓練、“何をどのように行ったら効果的なのか?”は、まだまだ研究の余地があるのです。そこで、中島は、注意機能の改善に用いる課題について、課題特性と課題を反復遂行する経過で生じる学習に着目して検討して論文として投稿しました。簡単に言うとこんな感じ。
 「Gentileら (2000)の報告する、作業の環境が変化するopen task(例:テニスの試合、動く乳幼児を抱きかかえる)を、Baddeley (Baddeley, 1986)が述べた、注意機能の働きに依存する試行錯誤の学習方法である誤りありの学習(エラフルラーニング)で行うことで、注意機能関連領域の脳領域が賦活される可能性を示した。」
 上記の詳しい内容は、「Open Taskの誤りあり学習と誤りなし学習における前頭葉賦活領域 機能的近赤外線分光法による分析:中島 ともみ, 宮前 珠子, 萩田 邦彦, 山下 拓郎, 馬場 博規:作業療法 37(3) 265-275 2018年6月」でお読みください。SASの理論はいろいろな注意機能のリハビリテーションに利用できると思います。ぜひ、今度は皆さんで挑戦してみてください。以上で、注意障害のリハビリテーションのお話は終わり。 最後に、皆さんにメッセージです。私がセラピスト業を始めた時に(愛知県作業療法士会に所属していたので、愛知県士会の役員の方から)自己紹介とともにメッセージを求められたのです。そこで、私が示したのは“初心忘るべからず”でした。何も出来ない自分を卑下しないようにしよう、出来ないから出来ることを一つ一つ増やして行こう、そして出来るようになっても奢らないようにしよう。努力を積み重ねていると、努力を続けるためには、先輩からの助言、周囲の理解と応援が必要でしたから、周囲への感謝を学ぶことができました。だから、奢るなんてことは、とてもじゃないけど出来ないです。あの時、この言葉をしっかり覚えておこうと思ってよかった。今、改めて思います。
 皆さんは、何を今考えていますか?10年後20年後の自分に贈りたい言葉を考えてみるのも良いですよ。


引用文献

Baddeley, A. D. (1986). Amnesia,autobiographical memory and confabulation. In D. Rubin (Ed.), Autobiographical memory (pp. 225-252). New York: Cambridge University Press.

Gazzaniga, M. S., Ivery, R. B., & Mangun, G. R. (2009). Cognitive Control. In Cognitive Neuroscience The Biology of the Mind (pp. 555-598). New York: W.W.Norton&Company,Inc.

Gentile, M. A. (2000). Skill Acquisition;Action,Movement,and Neuromotor Process. In J. Carr, & R. Shepherd (Eds.), Movement Science Foundation for Physical Therapy in Rehabilitation second edition (pp. 111-187). Gaithersburg, Maryland: Aspen Publishers,Inc.

Shallice, T. (1994). Multiple Levels of Control Process. In C. Ulmità, & M. Moscovitch (Eds.), Conscious and nonconscious information proccessing (Vol. 15, pp. 395-420). MIT Press.

Shallice, T., & Burgess, P. W. (1991). Deficits in strategy application following frontal lobe damage in man. Brain, 114, 727-741.